第17回地方財政学会から

「本業」のひとつにもどって、地方財政学会IN関西大学出席記。予定されていた懇親会が中止になるなどもあったがインフルエンザ渦中の潜入ルポじゃないよ。

出色の報告の一つが、青山学院大の西川雅史先生の「地方交付税制度の再構築への指針:留保財源率の引き下げという選択」。
これまで、留保財源(地方税収入のうち25%を「留保財源」として基準財政収入額から除くこと)の割合を大きくすることが地方分権に資するということと、留保財源を大きくすると都市・農村、東京・それ以外の格差がますます大きくなるという意見の対立があり、政策方向でいえば前者がまさっていたのだが、公共選択学派に属する報告者らしく、この留保財源の最適配分を数量的に求めたものとなっている。秋口には別途フルペーパーで発表されるだろうから詳細は省くが、
1.地方交付税の制度、留保財源率をめぐる理論を紹介(私自身、岩手県が、留保財源率の引き下げを主張していたのは、見逃していました)。
2.田近・油井「地方交付税改革−交付税地方税補助金の連関をどう解くか」『フィナンシャルレビュー』72号、2005年を紹介し、留保財源率が動くと、交付税総額や基準財政需要額総額、交付団体の水準超経費が同時に動くことをグラフ化して説明したうえで、引き下げインセンティブだけではないことを示す。
3.税収中立のもとで、留保財源と基準財政需要額をシミュレーションすると(基準財政需要額に比例すると仮定)、留保財源を10%とすると基準財政需要額7.7%引き上がり、その結果、地方自治体間配分のジニ係数が最小(格差が小さい)になり、不交付団体も300になる。

2の留保財源率と基準財政需要額総額が同時に動く(これは、石原信雄の交付税の教科書にも記述がある)ので、こうしたシミュレーションは「簡単」にできるだろうところ、今までなぜやられていなかったのか、という根本的疑問はともかく、じっさいにやってみると、現行の留保財源率がジニ係数でみるとかなり不公平度が高いものであることを示したことで秀逸な報告でした。
関学の小西先生がさかんに「留保財源は公債費の財源になっている」とか言っているし、総務省担当者らも、「留保財源は基準財政需要額でとらえきれていない都市的需要を勘案している」と言っているが、留保財源率と基準財政需要額の動きかたが、田近・油井モデルと異なっているとしたら、どうなるんでしょうね。